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掲載日:21.01.06

物流効率化のためのテクノロジー活用について考える:第56回
平時における円滑な情報共有のための「災害時用情報共有システム」の活用可能性について~中部国際空港におけるユニシス社システムの活用事例

 物流の業務は、複数の関係者の情報共有が必ず発生します。トラック輸送なら、トラック事業者と発荷主・着荷主との間で、貨物の集荷時間、貨物の品目と数量等の情報共有が必須です。貨物の配達先での荷役バースの空き状況を、トラックドライバーに円滑に共有されるかどうかが、トラックドライバーの作業効率に大きな影響を与えます。近年、バース予約システムがトラックドライバーの労働条件改善という観点から注目されているのはこの点からです。
 関係者間の情報共有について、物流業務に特化したシステムが有効な場合が多いですが、災害時用の情報共有システムを活用することも考えられます。
 災害時は、平時以上に情報の混乱が発生しやすく、関係者における情報共有の円滑化が重要な課題です。災害時用の情報共有システムは、混乱の中で情報共有が実現できることを目指すものであるゆえに、平時の情報共有にも有効であることが予想されます。
 実際に、災害用の情報共有システムを平時にも使用している事例として、中部国際空港の取組みを紹介します。中部国際空港が導入したシステムは、日本ユニシス社の「クロノロジー型危機管理情報共有システム災害ネット」(以下、「災害ネット」)です。「災害ネット」の特徴は、防災分野の概念である「クロノロジー」に基づいて設計されている点にあります。
 クロノロジーとは、災害時緊急時の状況や活動の内容を、時系列に沿って記録・整理した情報あるいはその手法のことを言います。自衛隊など災害対応の現場では定着している言葉です。日本ユニシスは「クロノロジー」の考え方をそのままシステム化し、ネットワークを通じて離れた拠点とも情報共有できる点に特化した新しい災害情報共有システム「災害ネット」を設計しました。現場の情報や本部に対して寄せられた情報をパソコンやスマートフォン、タブレットから「災害ネット」に入力するだけで情報が一元化され、本部と各関係者が情報を共有できます。具体的な操作ステップ数は少なく、その少ないステップを繰り返すことで全社の情報が一元化され、必要な部署に対し必要な情報を共有することができるとされています。今どこで何が起きているかをリアルタイムに共有することができます。

図表1 「災害ネット」の仕組み

出所)https://www.mlit.go.jp/koku/content/001323163.pdf


 「災害ネット」は、このようなシンプルな操作性と都度設定変更できる柔軟な仕組みが評価され 、官庁・自治体のほか、交通、エネルギー、製造、金融、施設管理など、多種多様な業種・業界で運用されています。中部国際空港において運用されている「災害ネット」の導入効果が明らかになった事例のひとつが、2018年台風21号への対応です。この台風の影響により、同空港で多数の便に発着変更を生じたほか、甚大な被害に遭った関西国際空港の一時閉鎖と相まって、中部国際空港には膨大な航空旅客と航空貨物が集中しました。このイレギュラーな状況下で、現場からの情報を電話等で受けることは大きな負荷となるところでした。しかし、各関係者は災害ネットを通じて中部国際空港のCOC(セントレア・オペレーション・センター)に報告を行い、COCは時系列情報を一元的に閲覧することでリアルタイムに状況を把握し、迅速かつ適切な判断と指示を行うことができたとされています。一方、各関係者にとっても「災害ネット」を閲覧することで、指示を待たずに自発的に動くことができ、さらに、各々が同じ情報を見ながら行動するため、情報錯綜や認識齟齬の発生を防ぐことができたとのことです。
 この中部国際空港における対応は、自空港が被災したケースではなく、ある意味、平時における業務が急激に増加した場合の対応活動と言え、災害時用情報共有システムが、被災時以外の場面で有効に機能した事例とみることもできます。
 中部国際空港ではそのほか、平時に日々発生する小さな課題やアクセス交通の支障といった空港外の問題も含む様々な情報を、災害ネットに集約しています。災害はそれほど頻繁に起こるものではありませんが、日々利用することで各関係者の習熟度を高め、日常業務において大規模災害に備えた訓練を重ねることで現場力の向上が図られているとしています。
 このように災害時用情報共有システムを平時から使用することは、単に災害時用情報共有システムの災害時用ゆえの優れたスペックを通常業務の効率化に活かすというだけでなく、平時から活用しておくことで、災害時にも混乱することなくシステムを使いこなせるようになるというメリットが期待されます。災害が多発傾向にある近年の日本の物流業界では、今後、ますます注目が高まる取組みになると予想されます。