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連載:
掲載日:21.09.01

物流DX入門:第4回
災害対応における物流DX(地図DX)の有効性
~本年8月豪雨におけるトヨタ自動車の「通れた道マップ」における情報提供状況について

 前回の本コラムでは、「「物流DX」はまず「地図DX」から?」と題して、物流DXにおけるデジタル地図を活用する体制の構築、いわば「地図DX」の事例についてご紹介しました。「地図DX」の災害時対応に関する事例の一つとしては「通れるマップ」が挙げられます。今回はこの「通れるマップ」について、本年8月に発生した豪雨におけるトヨタ自動車の情報提供状況をご紹介したいと思います。
 本メルマガのコラム「物流効率化のためのテクノロジー活用について考える」(今号では休載)の第53回(2020年10月7日配信)および第59回(2021年4月7日配信)では、災害時の通行確認ルートである「通れるマップ」についてご紹介しました。「通れるマップ」とは、地震・台風・豪雨等の災害時において、通行可能なルートをカーナビから提供される走行実績情報に基づいて地図上に示すものです。災害時における通行可能ルートについて、過去の災害では警察等の公的機関での把握が困難であることが問題でしたが、その解決策として“実際に車が通行できているルート”に関する情報を提供する「通れるマップ」が誕生したわけです。
 「通れるマップ」は名前を変えて複数の組織が提供しています。本年8月に発生した全国的な豪雨では、トヨタ自動車の「通れた道マップ」が豪雨当初から、通行可能ルート情報に通行規制や渋滞など各種の関連情報を加えて提供していましたので、ご紹介したいと思います。
 「通れるマップ」の元となるデータは、わが国の各自動車メーカーが保有しているものです。「通れるマップ」が本格的に稼働しはじめた東日本大震災発生後の時点では、自動車メーカー毎に、自社の自動車のカーナビから提供された情報のみに基づいて作成されていました。その後、複数の自動車メーカーの走行実績情報を集約した「通れるマップ」が特定非営利活動法人のITS Japanから提供されるようになりましたが、現在でも自動車メーカー別の「通れるマップ」も提供されています。トヨタ自動車の「通れた道マップ」はその一つです。
 本年8月、西日本を中心に記録的な大雨が続き、気象庁が数十年に一度の重大な災害の危険が差し迫っているとして最大限の警戒を求める状況が発生しました。こうしたなかでトヨタ自動車の「通れた道マップ」では、豪雨の降り始め当初から通行可能ルートを含む各種の情報が提供されていました。図1は、8月14日夜の時点における「通れた道マップ」の表示状況です。走行可能ルートを示す水色のラインがあまり表示されていませんが、図2に示すように地図を拡大することで、より詳細な情報を知ることができます。

図1 トヨタ自動車の「通れた道マップ」2021年8月14日時点

出所:https://www.toyota.co.jp/jpn/auto/passable_route/map/

 このトヨタ自動車の「通れた道マップ」の特長は、走行実績情報に加えてVICSの情報も表示されている点です。VICSとは、Vehicle Information and Communication Systemの略称で、渋滞や交通規制などの道路交通情報を、FM多重放送やビーコンを使ってリアルタイムにカーナビに届けるシステムです。このVICS情報は一般財団法人 道路交通情報通信システムセンターによって24時間365日提供され、カーナビによるルート検索や渋滞回避に活用されています。
 図2は、「通れた道マップ」について佐賀県エリアを拡大したものですが、これを見ると、多くの赤い色のマークが示されています。このマークは通行規制がかかっているポイントを示すものです。同じ赤いマークでも「!」となっている場所は通行止めの理由が冠水であること、傘の絵になっている場所は大雨が理由であることをそれぞれ示しています。

図2 トヨタ自動車の「通れた道マップ」2021年8月14日時点
※佐賀県エリアを拡大


出所:https://www.toyota.co.jp/jpn/auto/passable_route/map/

 一方、同じ時点で、先にご紹介した複数の自動車メーカーの走行実績情報を集約するITS JapanのHPでは、まだ本年7月11日時点の静岡県、神奈川県等の沿岸部の情報が表示された状況になっています(熱海市において土石流災害が発生した豪雨に対応したものと思われます)。同HPは、昨年2月の東北地震では発災後翌日には「通れるマップ」を掲載していましたが、今回の豪雨のような広範囲に及ぶ災害では、複数自動車メーカーのカーナビ情報を集約する性質上、対応に時間がかかってしまったのかもしれません。
 このITS Japanの「通れるマップ」は、トラックメーカーのカーナビ情報も収集しており、「トラックも通れた道」も示してくれる点で優れています。それに対して、トヨタ自動車の「通れた道マップ」は、同社の自動車のカーナビから提供された情報のみによって走行可能ルートを把握したものであるため、“通れた道”として示された走行可能ルートがトラックのようにサイズが大きい車両も走行できるとは限りません。しかし、豪雨発生後の早い時点で提供される情報は、対象車両がある程度限定されるとは言え、非常に参考になると思われます。少なくとも通行規制に関する情報は、車種を問わず役立つ貴重な情報です。
 図1、図2は8月14日時点のものを示しましたが、図3は雨量が少なくなってきた8月16日時点の状況です。通行規制がかかっているポイントがかなり減少していることがわかります。

図3 トヨタ自動車の「通れた道マップ」2021年8月16日時点


 このように、災害の発生当初の早い時点から通行可能ルートを把握し、さらに、刻々と変わる情報をいち早く反映させることができるのは、デジタル化された地図をツールとして使っているからなのは間違いありません。もし、紙の地図に人間が情報を書き込んでいったら、完成した頃には災害は終息しているでしょう。地図に書き込んでいる間に状況が目まぐるしく変わってしまい、とても追いきれないと思われます。本コラムで言う「地図DX」が災害時対応に関しても非常に重要であることを、トヨタ自動車の「通れた道マップ」における迅速な対応によって示しているものと思われます。