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掲載日:21.06.02

物流DX入門:第1回
物流DXの実現例としての「災害時におけるWeb上需給マッチングシステム」 ~単なるデジタル化、IT化を超えるために必要なものとは?

 今回から、近年注目が高まっているDXの物流分野における活用について取り上げるコラムを掲載させていただければと思います。まずはDXとは何かについての理解が難しいところですが、「災害時におけるWeb上需給マッチングシステム」は、このDXとは何かについて理解するための良い例の一つになるかもしれません。

1.DXとは何か
 物流分野におけるDX(以後「物流DX」とします)について検討しようとするなら、まずDXとは何かについて理解することが必要になります。しかし、このDXとは何かに関する理解がなかなか難しいというのが現状と思われます。
DXという言葉が注目されるようになったのは、経済産業省が2018年に発表した報告書「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」が契機と思われます。同レポートでは、「参考」としてIT専門調査会社のIDC Japan株式会社の以下のようなDXに関する定義を紹介しています。

 「企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること」

 この定義を多少読み返した程度では、なかなかDXの具体的イメージが掴みにくいのではないでしょうか。筆者もそうでした。特に物流分野におけるDXとは何かをイメージしようとする場合、東日本大震災から誕生した「災害時におけるWeb上需給マッチングシステム」に当てはめてみると、意外に物流DXがイメージしやすくなったように思われましたので、今回は同システムの物流DXという観点からの再整理を行ってみたいと思います。

2.物流DXとしての「災害時におけるWeb上需給マッチングシステム」
 既に度々言われているところですが、災害時には「被災者が必要としている物資が必要なだけ届かない」事態になりがちです。その解決策としてのインターネットの活用は、新潟県中越地震の頃から始まりました。当時は被災地自治体のHPに「500mlペットボトル飲料水が100本必要です」といった掲示を出して、提供を呼び掛けるといったことを行っていたのですが、必要量を遥かに超える物資が集まってしまう問題が発生しました。自治体のHPに「100本必要です」と掲載しても、実際には1,000本集まってしまうのです。多い分には問題無いようにも思われますが、災害時には被災地に集まった物資を受け入れる倉庫の確保が難しいという大きな問題があります。できれば飲料水ペットボトルが100本必要なら100本だけ、被災地に送られてくることが望まれたのです。
 この問題を解決する意外な方法が、東日本大震災の際に誕生しました。それが「災害時におけるWeb上需給マッチングシステム」です。このシステムの仕組みは簡単で、「500mlペットボトル飲料水が100本必要です」という情報をWeb上に掲載するところまでは一緒です。異なるのは、「水を送ってくれた方は、送った本数を事前に連絡する」というルールを設けていることです。「30本送りました」という連絡が入れば、その分を減らして「あと70本必要です」とWeb上で告知します。これを見て、他の人が残りの分を送り、それに対応してWeb上の必要本数から送る本数を減らしていけば、100本必要なら最終的に100本、必要な分だけの物資量が被災地に到着することになります。倉庫の確保も不要となります。
 この「災害時におけるWeb上需給マッチングシステム」は、物流DXの要件をかなり満たしているように思われます。まず、災害というのは、DXの定義に言うところの『外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化』とも言えるのではないでしょうか。その変化に対応するために、プラットフォームとして物資に関する需給マッチングのためのサイトというIT技術を利用して、被災者に必要な物資を必要なだけ届けるという新しい仕組み(一種のビジネスモデル)を通して、顧客すなわち被災者の『エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出』したと捉えることもできると思われます。
 この「災害時におけるWeb上需給マッチングシステム」の前段階としての、「ネット上で被災地が必要とする物資を告知する」という取組みは、いわば単なるデジタル化、IT化であり、DXに関する解説書でも「単なるデジタル化、IT化」はDXとは言えないとしているところです。しかし、そこに「物資の提供者が提供した物資に関する情報を事前に連絡し、その内容をWeb上に掲載する情報に反映させる」という新たな仕組みを導入することで、被災者という顧客に「必要な物資が必要なだけ届く」という形で物流DXが実現されたとも言えるのではないでしょうか。