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掲載日:20.10.07

物流効率化のためのテクノロジー活用について考える:第53回
災害時に「どの道路が通れるか」は意外に分からない?~東日本大震災から登場した「通れるマップ」の有効性

1.「どの道路が通れるか」が誰にも分からない理由
 地震・台風等の自然災害時には、道路の陥没や冠水、橋の落下等によって通行不可能な場所が発生することが少なくありません。トラック輸送等の物流を止めないためにも、この通行不可能な場所がどこかを把握し、「どの道路が通れるか」を知ることが非常に重要になります。
 しかし、過去の自然災害では、意外にも、この「どの道路が通れるか」についてまとめた情報が警察・自治体・国等のどの行政組織にも無いことが示されてきました。たとえば、新潟県中越地震において、ある物流事業者は警察に問合せしても、「どの道路が通れるか」は分からなかったそうです。
 この理由は、「どの道路が通れるか」に関する情報が、様々な行政組織、企業等に分散しており、一元的に管理しているところが無いことにあります。警察も「どの道路が通れるか」はある程度把握しているのですが、災害後しばらくは電気・水道・ガス等のインフラ復旧工事が活発化します。このインフラ復旧工事が道路のどの箇所で行われるかまでは警察でも把握していないのです。
 また、国の道路管理の代表的な組織は国土交通省です。平成28年熊本地震で被災地となった熊本県では、県内に多くの農業道路がありました。この農業道路の管轄は農林水産省であり、農林水産省と国土交通省で、通行可能な道路に関する情報は共有されていなかったのです。

2.東日本大震災から登場した「通れるマップ」の有効性
 この問題の最良の解決策は、「どの道路が通れるか」という情報を持つ警察・自治体・国等の公的機関や、インフラ工事を行う電気・水道・ガス等の会社の工事情報が一元的に管理される仕組みを作ることです。しかし、それは簡単ではありません。
 「どの道路が通れるかが分からない」という問題のもたらす弊害は、特に東日本大震災のような広域災害では深刻になりました。非常に広い地域において、道路の通行不能箇所が多数発生してしまったためです。このため、避難所への物資輸送が困難になることもありました。このような事態になってから、「道路に関する情報を一元的に管理する体制」を構築しようとしても、遅すぎます。
 しかし、この東日本大震災では、「どの道路が通れるか」に関する情報を従来と全く違う観点から収集しようとする方法が実施されました。それは、車のカーナビが発信する「どの道路を実際に走ってきたか」に関する情報をまとめ、地図上に示すことで、「どの道路が通れるか」を把握しようというものです。このカーナビの情報を元に「どの道路が通れるか」を示した地図は「通れるマップ」等と名付けられました。どの道路が通れるかに関する行政機関の情報をまとめるには時間がかかりすぎる、それなら、どの道路が実際に走行できているかという情報を活用しようという、いわば逆転の発想とでも言うべき対策だったと思われます。
 この「通れるマップ」は、当初はトヨタ、ホンダ、いすず等の車メーカー別の情報を整理したマップとなっていましたが、東日本大震災でその有効性が認められ、現在は、それらのメーカー別情報を一本化し、ETC情報等も加えた「通れるマップ」が国土交通省のホームページ等に掲載されるようになっています。下図は平成30年西日本豪雨の際に作成された広島市・呉市周辺の通れるマップです。

図1 国土交通省HPに掲載された「通れるマップ」

出所)https://www.mlit.go.jp/road/bosai/toorerumap/index.html


 この「通れるマップ」では、道路を通れる車両のサイズに関する情報までは分かりません。物流事業者の場合、自社のトラックが通れるかどうかが重要になり、その点では、この「通れるマップ」のみでは、走行ルートの決定に必要な情報が100%得られません。しかし、どの道路が通れるかが分かれば、後は地元ドライバーからの情報提供で、実用的な配車計画の作成は可能と思われます。
 また、近年のカーナビには、トラックの走行規制情報を活用できるものも登場しており、そのようなカーナビと通れるマップを併用することも考えられます。
 道路の走行可能ルートに関する情報について、行政機関や民間会社が保有する情報が一元化される見通しは、まだ立っていないようです。そのため、「通れるマップ」を物流事業者が役立てるためのノウハウは、今後も検討を続けることが求められると思われます。